暗くなるまで待って

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Wait until Dark (1967)


これすごく怖くてでもとても面白い話でした。終盤での部屋の中が真っ暗になるシーンは、本当に本当に真っ暗。画面がぜんぶ真っ黒。なにひとつ見えない。何が起こっているのかまったく分からなくて。今だったらわずかに人の陰が分かる、くらいの暗さで怖さを煽ってくるんだろうけれど、多分当時の撮影技術ではできなかったからかもしれないせいか、本当に画面が何も映ってないただの黒ってかえってめちゃくちゃ怖い。真っ暗闇の中で犯人に追い詰められた盲目の女性、スージー(オードリー・ヘプバーン)の悲鳴だけが聞こえ、彼女はどうなったの!?殺されてしまったの!?とほんとにハラハラドキドキさせられました。
目が見えない代わりに彼女の武器は音。夫の友人や警察を装って部屋に入ってきた男たちが、スージーには見えないから分からないだろうと思ってやっていたことを実は彼女は全部"お見通し"ならぬ"聴き通し"とでもいえばいいのか、どうして手すりや冷蔵庫、ブラインドの紐を掃除しているのか(男たちが自分の指紋を拭き取っていた)、なぜ冬なのに何度もブラインドを開け閉めするのか(外で見張っている仲間を確認するため)、ロート親子が同じ靴を履いているのはなぜなのか(同一人物がロート父とロート息子のふりをしているだけ)、と、彼女は鋭い聴覚だけで状況を判断するわけで。そして男たちとスージーを観客のわたしたちだけが両方見ることができる、という面白さ。スージーは見えなくて怖いけど、わたしたちは見えるから怖い。
家じゅうのライトを消して回って、犯人には見えない、分からないだろうと思ったら、家の中でたったひとつ明かりが残っていて、それは冷蔵庫の中の明かり、というのも、特別な品ではなく、どの家にも必ずある日用品ってのがまたとても親近感と恐怖感をあおってくれました。
電球を外しては床に落として割るっていうのは室内でも靴を履く生活だからできることだなーって。日本じゃ無理だ。
あと犯人たちがスージーをだますためとはいえ妙に芝居上手でちょっと可笑しかった。
オードリー・ヘプバーンのあまりにも長い睫毛はもちろん(瞬きしたらバサバサ音がしそう!)、人形を運んで殺されてしまったリサ役の俳優さんもバービー人形みたいな容姿でとってもゴージャスでした。
そしてほぼスージーの住まいの中で話が進むので、舞台を見ているような映画でもありました。というか私は今猛烈に舞台が見たい……ロンドン……ニューヨーク……。

しかしこのスージーの写真家の夫が彼女に冷たすぎやしないですか? 中途で失明した妻を叱咤激励してくれてるんだろうけれど、盲目のチャンピオンを目指すんだ、とか、いずれ俺のスタジオまでひとりで行けるようにならないと、とかさー、すごい上から目線でイラっとしちゃった。もうちょっと妻に優しくしろよって思っちゃった。


目が見えない人が主人公の映画って他にもいくつかありますが、最近だと「ドント・ブリーズ」かな? 他には「瞳が忘れない/ブリンク 」、「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」、「ブラインド・フィアー」など。探せば他にももっとありそう。目が見えないことをハートウォーミングなドラマに仕立てるかスリラーに持っていくか。私は断然後者が好み。


G.I.ジェーン

G.I. Jane (1997)

この映画のデミ・ムーアはtoo muchだよなぁ……と思うのですが他の人、特に女性の感想はどうなのだろうか。ヴィゴが出てなかったら絶対観てない。だから2度目の視聴だけどやっぱりヴィゴしか観てなかった(笑)。なんだろう、この映画でデミは強い女性、男性と同等になれる私、を演じたかったんだろうか。女性のマッチョイズムというか。ついでに言うとこの辺はジェニファー・ロペスにも似たものを感じる。もちろんこういう強い女性を好む人もいるとは思うんですが。私は男性/女性、お互いできることをしてできないことは助け合って生きていけばいいじゃんって考えるので、できない、もしくは不可能なものを性別が理由でむりやり求められる状況だとしたらそもそも最初からその基準は間違っているんじゃないかと思うのですよ。
海軍の特殊部隊SEALsはこの映画で描かれたようにそうとう厳しい訓練と最終テストをクリアしないと入れないんだろうけれど、どれだけ厳しくても女性が志願してきたら最初から拒否せずにまずは門を開けばいいと思うんだけどな……でもマスター・チーフ(ヴィゴ)の言う通り、女性であるという理由で作戦の足を引っ張ったり他の隊員も巻き込んで犠牲になるなら女が入るのは迷惑、という考えも分からなくはない。じゃあいったいどうすりゃいいんですかね?こういう命題に明確な答えや解決法を見つけるのは難しいですね。
チーフは確かに鬼軍曹だしめっちゃくちゃ厳しいけれど、仲間であるオニール(ムーア)を疎ましく思って彼女を助けようとはしない他の候補生に対しては、容赦なく叱責したり海に突き落としたりするのは男女関係なく公平だよね?
終盤の、全員が訓練生の身分なのにいきなり実戦に出ることになって、チーフが負傷したものの無事任務を終えて帰還するってのはそれはさすがにないだろうとは思いましたが、無事最終テストに合格したオニールのロッカーにD.H.ロレンスの詩集が入っていたのはちょっとぐっときました(もちろんその詩集を置いて行ったのはマスター・チーフ)。
でも彼女を巡るワシントンでの政治的駆け引きは結局どうなったんだとも思うし、わりと都合よく終わった映画だった……。

全体的にシリアス調ですが、実地訓練でどろどろに疲れているところに座学で作文の時間が入れられて、おまけに薄暗い部屋の中にチーフの意地悪な計らいでスローテンポのオペラが大音響で流されたら、そりゃ訓練生のほとんどが寝るよねっていう。このシーンには爆笑だった。


スナイパー・ヴィゴ!

あとなぜか実地訓練の設備の中にある、木の板で作られた模擬の壁に「終」って書いてあるんですよ。漢字で。

なんで漢字なんだ。


ところでこの映画ってジム・カヴィーゼル出てたんですね!まったくノーマークだったので慌ててimdbを確認してきました。ものすごくびっくりした。女が入ってきたぜってオニールに対してあれこれ絡んできたり嫌味を言ったりしてたんだけど、訓練中の自分の行動のせいで全員が捕虜になる原因を作ってしまうけっこうなバカ野郎でもあるんですが。拷問を受けても屈しないどころかマスター・チーフをフルボッコにしたオニールを見直したスロヴニック(カヴィーゼル)はそのあとバーで彼女に向かって困ったような顔をしながら素直に謝って。やだなにそれかわいい!それ以降はいつも彼女の後ろで見守るようにそっと立っているのがまたいい感じで(背が高いからそういう風に見えるだけなんだけどここは都合よく解釈させて~)。

ヴィゴとカヴィーゼルが共演してるという事実を知ったら内容はともかく私にとっては突如美味しい映画になった。

シング・ストリート 未来へのうた

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Sing Street (2016)


ジョン・カーニーから若い人たちへの、前へ進め、夢を追え、という熱いメッセージが込められた映画でした。だからそれを副題でバラしちゃいけないと思うの。

「これは君の人生 どこでも行ける
 これは君の人生 なんにでもなれる」
「今でなければ いつ行く? 探さないで何が分かる?
 決して後ろを振り向くな」

105分という短い映画の中でいちばん言いたかったことが全て歌詞に載せられているのがジョン・カーニーらしさであり、そして私は前2作ほどはこの映画に心打たれることはなかったけれど、でもそれは自分が親になり、自身の子供たちの未来や将来を楽しみにしつつも憂いや心配も抱える立場になったからかな、とも思った。でもそれでいいと思う。夢を追って無茶をする若い人たちの後ろには、ハラハラしながらも見守っている親もまた必ず存在するのだから。

この映画で何が泣けたって、体育館でのMVを撮影するシーン。コナーの中では、その体育館はエキストラの人たちに説明したような「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の50年代のダンスシーン。フルーツポンチが置かれた机、華やかに飾り付けられた舞台、衣装をそろえたバンドのメンバー。華やかな衣装で踊る高校生たちの中で、ひときわ美しいラフィーナ(ちょっとヘイリー・アトウェル似だ)が現れ、パーティの様子を見に来た校長はダンスやバンドに理解ある先生で(あの長いローブ姿での側転、思わず拍手喝采!)、コナーの両親は仲睦まじく手を取り合って踊り、バイクに乗って現れた兄貴は校内でワルだけど人気者(赤いジャケット姿に、喧嘩相手にナイフを取り出すのはまんまジェームズ・ディーンの「理由なき反抗」ですね)。けれど、現実はそうではなくて、両親は離婚寸前だし兄は夢を諦めている。そしてMVの撮影に約束したラフィーナは最後まで現れることはなかった。だからコナーの思い描いたパーティの様子は儚い夢のような世界で、これはもう号泣でした。


ラスト、小さな船でイギリス目指して海を越えていこうとするコナーとラフィーナ。冬の荒波の中、あんな小さなボートで本当にたどり着けるのか、私はものすごーく不安で。でもこの先どうなるのか分からないまま画面は暗転して映画はそのまま終わってしまったのですが。
エンドロールで、スタジオで録音の様子が声だけ聞こえてくるんだけど、それは映画の冒頭、いちばん最初に完成させてMVを撮った曲なのですね。だからコナーはイギリスに渡った後プロとしてデビューしたんだと思う。私はそう解釈しています。



さらば あぶない刑事

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さらば あぶない刑事 (2016)


邦画は滅多に見ないけど、このシリーズは別格扱い。なにせ男性ふたりのバディもので最初に好きになったのはこのドラマのタカとユージだもの。その後は多分「リーサル・ウェポン」のリッグス&マータフ。あとは……いきなり飛んでPOI、かな?余談ですが「リーサル~」って今ドラマ化してるんですね。

Amazonプライムにドラマのあぶ刑事が入ってて、ひっさしぶりに(たぶん30年ぶり……)第1期(1986~1987放映)を見直しましたが(Ep14の「死闘」が死ぬほど好き)、記憶よりもずっとギャグ多めお笑い多めでびっくりでした。こんなコメディ路線だっけ?当時はもっとシリアスで暗い話だと思ってました。自分がまだ子供だったからかな。
私自身がこの後一気に洋画にシフトしていったので、「もっともあぶない刑事」を最後に、それ以降は見てなくて。でも「さらば~」は最終作ってことで、ご祝儀映画でした!だってまず監督が村川透ですもん。それだけで悶絶でした。レパード出てくるし(あんな懐かしい車、どこに保管されていたんだろう!?)、最後の式典シーンには落としのナカさんがちゃんと扇子持ってるし、その隣には「パパ」こと吉井さんも。そっか、このふたりは一足先に定年退職しているのですね。なんだかしんみりしちゃった。
町山透が課長になってるのにはびっくりしたし、近藤課長のそばにいつもいた瞳ちゃんが現役なのも嬉しい。港署内もすっきりおしゃれになりました。
個人的には、モーターボートで逃げる男を追って大下が川沿いを疾走するシーンを見て、「ボートごとグレネードランチャーで撃ち落としてしまえばいいのでは!?」と思った私はだいぶ海外ドラマに毒されているなと自覚しました(笑)。

ちなみに私、昔々、家族で横浜博覧会に行ったことがあったんだけど、会場となった今のみなとみらい地区だけじゃなくて、横浜の街なかもあちこち歩いたのですが、本牧、山下公園、マリンタワー、みなとの見える丘公園、華正樓、などなど、ドラマに出てきたところと同じ場所を訪れることができたのが、もう嬉しくて嬉しくて。というか、この頃からロケ地巡りが好きだったんですね、私。そして、あぁどうしてそのまま国内ドラマを好きで居られなかったのか!そしたらロケ地巡りも簡単にできたじゃない。ロンドンもパリもNYも、ロケ地巡りするには遠くて大変なんだよ!時間が経つとどんどん変わったりなくなっちゃったりするし(その辺は国内海外関係ないですが)、そういうのを知ったり聞いたりすると、あああぁあああ、早く、早く行かなきゃってなります(なるだけで実際は行けないけど)。
ただ、赤レンガ倉庫はあまりにもきれいになりすぎてちょっと残念だった。もっとこう鬱蒼とした、昼間でもとても近寄っちゃいけない怪しい雰囲気なのがドラマで見てて好きだったので。

……とまぁちょっと話が横にそれましたが、今回「さらば」のラストは、なにせこんな人気作ですからあのふたりが死ぬのはありえないし、今までも何度も死んだと思わせておいて実は生きてましたから、ニュージーランドで探偵事務所を開いてふたりで仲良く生活してるのはベタだけどいいエンディングだと思いました。王道のハッピーエンドですね。

全エピソードを見たわけではないけれど、個人的に思い入れの深い作品でしたので、タカとユージ、港署の皆さん、長いことお疲れ様でした!の気持ちでいっぱいです。


とてもとても美しく撮れているふたり

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鷹山の銃を構えた時の左手の位置がいつも気になる

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ザ・コンサルタント

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The Accountant (2016)


非常に斬新で展開も見ごたえがあり、最後のオチが、まるでオープニングで子供の時のクリスチャン・ウルフが完成させたジグソーパズルのように、最後の1ピースがカチっとはまったことで全体図が見えるってのが最高に痺れました。

しかしながらいろいろと書きたくも、いざ書こうとすると感想がなかなかに難しくもあるのですが……そうだな、私はクリスチャンの父親の子育てが非常に興味深かった。クリスマスの後に、おそらく障害児の子育てに耐えきれなくなって家を出て行った妻。妻がいなくなって、あのお父さんは腹を括ったんだと思う。どんな理由があろうと、それを「自閉症だから」という言い訳で負けっぱなしだったりうやむやにはしなかった子育ては、おそらく本人が軍人だからというのもあるけれど、やられたらやり返せ、強くなれ、と育てた結果、兄のクリスチャンは会計士となって社会生活を送ることができたという面では成功だったけれど、同時に暗殺者になったという負の面も背負ったかと。でもこれってすごいよな、とも思う。会計と暗殺の両方の仕事がひとりの人間の中で両立している、そしてどちらも一流って、ちょっと普通じゃ考えられない。会計士として優秀だから、超がつく大物犯罪者の傍にいても彼は死を免れている、いうか、もちろん本人の腕もあるんだろうけれど殺されずに済んでいるというすごい人物。
だからこそ、弟はどんな人生を送ってきたのかなとも思ったし、弟から見た家族はクリスチャンとはまた異なった視点があるだろうから、それも見てみたかった。

前半は会計士としてのクリスチャン・ウルフ、15年分の会計監査を任された会社と、帳簿が合わないことを指摘したディーナ(アナ・ケンドリック)との交流。後半は殺し屋としてのクリスチャン・ウルフ、彼を追うレイ・キングの過去、ディーナを殺そうとした相手を追った末に、会社から雇われて自分を狙う敵のボスはなんと自分の弟だった展開は、すごいな、の一言でした。脚本の大勝利。特にオープニングのシーンは後半すべての謎が明かされる劇的な流れで、1度目に見た時と2度目以降に再び同じシーンを見てもその意味が全く違うっていう。

匿名の寄付金(実は寄付しているのはクリスチャン)で自身の娘のためにも自分で自閉症者向け施設を作った精神科医。あの娘さんは、かつて子供の時のクリスチャンが落として見つけられずパニックを起こしたときに、床に落ちたパズルの最後のピースを拾ってあげた女の子だったのも、そう来たかー!でした。
そしてクリスチャンが歌うマザー・グースの歌。あんなに悲しいソロモン・グランディ、今まで聞いたことがないです。

ちらりと映る小物に実は深い意味がある演出も面白くて。明かされた事実を知ると、特にあの水筒はすごい存在感ある。あのへこみ、そういう意味があったんかよ、しかもずっと使い続けてるんかよ、クリスチャン……。

ベン・アフレックの死んだ魚のような目が、つまり今まではマイナスだったその目がこんなにも生かされた映画はなかった。そしてそのベンアフ、でかすぎて(192cm!)、アナケンとの遠近感がものすごい狂ってた。



今回はシネマシティ立川で見てきましたが、ここは極音、爆音じゃなくてもとにかく音響が素晴らしく良いのです。この映画では特に銃撃戦の音が半端なく重低音ですごかったです。特にこのスナイパー銃の威力と轟音は凄まじかった。

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基本は置いて撃つものだと思うのですが、クリスチャンがこれを肩に抱えて撃っているシーンもあって、そうとう重いはずなのにベンアフどんだけでかくて力があるのよ、と感嘆。
私は銃器マニアではないですが、大きい男には大型の銃が似合う。

Barrett M82


あとね、始めは家計のやりくりで相談に乗ってもらったはずの会計士がまさかの凄腕の銃の使い手な上に、自分たちを殺そうと自宅にやってきた男たちを逆に殺しちゃったのを目の前で見たあの老夫婦、びっくりしただろうなぁ……(笑)。ここは唯一お茶目なシーンで笑えました。普段感情を表に出すことはないし、例えや比喩表現といった婉曲な言い方がクリスチャンには伝わりにくいからこそ、ボー然としてる老夫婦に無表情のまま手を振るクリスチャンがね、かえっていいシーンでした。



自閉症に関する本だと
ぼくには数字が風景に見える (講談社)
光とともに…~自閉症児を抱えて~ (秋田書店)
が理解するのに大きな助けになるかと。