Running for Grace (2018)
"Jo, the Medicine Runner”改題。
1920年代、大流行したスペイン風邪はハワイ島の日本人移民をも例外なく襲い、幼いジョーはその風邪で母親を亡くし孤児となる。日本人と白人の混血なのもあり、どこへ行っても疎ましがられる存在のジョーを、アメリカ本土から島にやって来たドクター、通称「ドク」(マット・ディロン)がたまたま通りがかった時に、お金がなくてマーケットの店主に殴られているところを助けたことから、ジョーはその医者の手伝いをするようになるのだけど。
ある日偶然出会った、コーヒー農園の大地主の娘グレースと互いに一目で恋に落ちるも、身分の違いだけでなく、ある時突然彼女に結婚の話が持ち上がりさぁどうする、という典型的なボーイ・ミーツ・ガール映画でした。若いふたりの恋心がピュアでとっても初々しくて可愛らしかったです。だってさ、グレースに目を閉じてって言うからジョーはキスするのかなと思ったら、近くにあった赤い花を手に取ってそっと彼女の耳元に飾るんですよ。それがもう可愛らしくて可愛らしくて……!
広大なコーヒー農園を所有し、そこで大勢の日本人移民を働かせ、コーヒー豆の取引で儲け大邸宅に住んでる大地主のダニエルソン。でも実はすでに破産一歩手前で、あと30日以内に家、農場、それに町に所有してるいくつかの建物もすべて差し押さえられるという通知を銀行から受け取っていて。
そこに渡りに船みたいに現れたのがドクと同じようにアメリカ本土からつい最近ハワイ島にやってきたレイズ医師(ジム・カヴィーゼル)。移動には主に馬を使う地に真っ赤なフォードの車を持ち込み、車内には瓶に詰められた様々な最新の薬を積んで身なりも派手でリッチな医者。島で10年以上働き、移動は自転車や徒歩という地味で質素なドクとまったく正反対のレイズをダニエルソンはドクより信頼していて、娘のグレースの怪我やここのところ思わしくない体調をセカンドオピニオンという名目で診療させたのをきっかけに両者は親しくなるんだけど。まぁこの辺はダニエルソンにはドクが気に入らないだけでなく、ドクがいつも連れてる日系人のジョーを自分の家に入れたくないというはっきりした人種差別があるんだけど。
人当りがよく陽気なレイズもすぐにダニエルソン一家に馴染んだと思ったら、なんといつのまにやらグレースとの結婚を望んでてびっくりなんですが。しかもこの医者、結婚の話がまとまりある夜ダニエルソンの家を訪れた際に若い女性を同伴してて、みんなが「?」ってなってるところに「娘のヘレンだ」って紹介して、はいーーーーー!??? てことはレイズには結婚歴があって、しかもこの人今度はおそらく自分の娘より年下の女性と再婚しようとしてるの? ヤバくない? ってここはわたしはドン引きでした(苦笑)。
しかしこのあと話は急展開、地主のダニエルソンは不慮の事故で死亡、続いてドクもレイズの車に轢き殺され、いったいどうなってしまうの? と見ているこっちはハラハラしっぱなし。
ダニエルソンが亡くなり、2週間後に控えた結婚式は延期しようか、と珍しく控えめに申し出るレイズにダニエルソン家のばーちゃんはいや、むしろ早めようって言うんですよ。財産があるらしきレイズとグレースの結婚が成立してしまえば、家も資産も自分の地位も持ちこたえることができるからっていう理由だからなんだけど、これほんとひでーよな。孫娘の意思はいっさい無視かよ。
ラスト、ジョーの早く駆けるその足は負けを認め、卑怯なレイズに島を出て行けと脅され言いなりになるためではなく、愛する女性の元へ誰よりも早く着くためのもの。生前のドクもまた、ジョーに彼女を諦めるんじゃない、まだ終わってない、と励ましていて。走って走って、レイズの車より早く走り結婚寸前のグレースを助けるのに間に合ったその姿はヒーローでした。まぁもしダメだったとしても、地元の人たちが大勢集まった前でドクを殺したのはレイズだよって言ってしまえばなんとかなるかな、なんて思いましたが。
だからこの映画の題名の"Running for Grace"は、恋した相手の名前グレース(Grace)だけでなく、目的のために誰かを貶めたりだましたり、ましてや殺したりするのではなく、尊厳を持って生きていくのに大切な「品位」(Grace)のために走る、という二重の意味があるんですよねきっと。
ドクの養子縁組がようやく通り、早く孫を結婚させようと焦るダニエルソンの母親の前で、僕はもう孤児ではなくちゃんとジョー・ローレンスという姓と名がある法的に認められた人間だときっぱり言い切るジョー。ここでドクの本名がイライアス・ローレンスだったことも明かされて、これは憎い演出でした。
そしていつもグレースを支え、かつ彼女の後見人にもなっているミズ・ハナブサが、ダニエルソン家はもう破綻してるってバラすと、なんだそれならもうグレースと結婚する意味はないじゃないか、こんなの詐欺だと怒りだすレイズ。彼もまた大邸宅やコーヒー農園等の財産目当てで結婚を決めたってことが分かって。ほんと御破算になって良かったよ、この結婚……。
レイズは怒りにまかせて式に集まった農園で働く日本人移民を見下しかなり汚い言葉でののしるんだけど。まぁわたしも日本人だからね、ここは見ててけっこう堪えました。
その後ジョーは正式に医学の勉強をして医者になり、グレースの家を診療所にして地元に尽くす人物になるという、最後は雨降って地固まる、なハッピーエンドでした。
とまぁこんな感じでお話はほんとごくごく普通だと思うのですが、実はエンドクレジットが全部流れ終わった最後の最後にものすごいオチがあって。
画面に地元の新聞がペラっと出てくるんだけど、一面を飾るのはレイズ医師の顔のアップ写真。それについた見出しが
CON ARTIST ARRESTED FOR MURDER
そう! なんと彼は医師でもなんでもなく詐欺師だったんですよ!! あ~~~なるほどそういうことだったのかー!!! だからフグの毒で自殺した会計士も適当に何回か吐かせるだけで匙を投げておしまいだったし、当然高いところから落ちて重傷を負ったダニエルソンにもなにもしないまま、というかできないまま死なせちゃったんですねー。すっっごく納得! 腑に落ちてめちゃくちゃすっきりした! もうほんと、最後の最後にやってくれたね! まさかのオチで大爆笑。一気に印象深い映画になりました(笑)。
レイズはいっつもお酒飲んでるせいか、妙にハイテンションでやたらと陽気で、車のハンドル握っても飲んでるからこれまんま飲酒運転じゃん? この人いつか事故って死ぬのでは、と思いながら見てたんだけど、最終的には詐欺師だったことが分かったので、彼の言動全てが「あぁなるほどねぇ」ってなった……(苦笑)。でも昼食の席でグレースを前にはにかむ姿は可愛いな。彼女を好きになった気持ちは本当だったのかもね。
ただ、人物描写はもうちょっと掘り下げてほしかったなという印象。特にドクは行きずりで助けたジョーを自分の家に一緒に住まわせ、助手だけでなく医学の手ほどきもし、法に阻まれつつも彼を自分の養子にしようと奮闘までしているのだけれど、彼をそうさせる動機はなんだったんだろう、という疑問はあった。見たところ40代後半くらいの独身男性のようだけど、ドクのバックグラウンドをもっと知りたかったな。そのドクを演じるのはマット・ディロン。彼を懐かしい~! と思う世代です。多分最後に観たのは2004年の「クラッシュ」だと思うけど、でも容姿はあんまり変わんないね!?
登場人物でいちばん好きなのはミズ・ハナブサ(ルミ・オオヤマ)です。彼女がいちばん冷静で周りをよく見てた人だったなぁと思ったし、劇中のナレーションも落ち着いた彼女の声だったのがすごく良かったの。
そして特筆すべきはハワイ島の壮大な景色の数々。息を呑むほど美しい。あんな綺麗な場所がいくつもあるんですね。ただただ感嘆でした。ハワイ島に行きたくなります。
BTS Running for GraceVariety Film Review: ‘Running for Grace’