二ツ星の料理人

burnt_poster.jpg


Burnt (2015)


とーっても愛すべき作品でした!脚本は「イースタン・プロミス」「堕天使のパスポート」のスティーヴン・ナイト。主役はブラッドリー・クーパーですが、私、彼の作品をきちんと見たのがこれが初めて。とっても素敵な役だったし、本人の雰囲気がシェフという職業にとてもマッチしていたと思う。

過去にドラッグや女の問題で自分の職場を放棄しちゃたアダム(ブラッドリー)ってそうとう荒れててダメだったのだと思うのですよ。その後アメリカに行って自分に100万個の牡蠣剥きを課し、それを達成したら次こそは!と選んだのがロンドン。これ、私はちょっと驚いた。選ぶならパリ、もしくはNYだと思ったので、えー、ロンドン!?って。でも今のロンドンはそれくらい美食が味わえる街になってるんですよねきっと。以前のメシマズなイギリスだったら絶対ありえない設定だ。
有能なシェフをスカウトし自分のレストランをオープンさせ、アダムが狙うはミシュランの三ツ星。

そのアダムがもちろんこのお話の主役なんだけど、しかし私が好きだったのは給仕長のトニー。演じるはダニエル・ブリュール。「グッバイ・レーニン!」の時から気に掛けてはいましたが、「RUSH」のストイックな役に次いでこれでダメ押し。彼の魅力大爆発でしたよ!いつもスーツ姿でそのままキッチンに入ってくるのが何とも言えないセクシーさに溢れてて。んー、なぜ私はダニエル・ブリュールにはストイックさを求めてしまうのでしょうか。謎。そしておそらく下ろせばけっこう長いだろう髪型をきちんと丁寧になでつけてて。
仕事にも対人にも厳しい彼が、でも心優しい面も見せてくれて。娘の誕生日に休みを取れなかったエレーヌ(シエナ・ミラー)の代わりに一緒に食事して面倒を見てあげてて。トニーは多分独身だろうけれどその姿がとても優しさに溢れてて、そしてアダムに誕生日ケーキを作ることを強要したところも良かった。エレーヌに休みを取らせなかったのはアダムだもんね。なぜか私、このシーンでもう泣けて泣けて。おそらく幼い子供の意思をトニーもアダムも尊重したからだと思う。

ミシュランの調査員の前で辛すぎるソースを出してしまい失敗したアダム。でもこれはミシェル(オマール・シー)の策略と裏切り。ここは少し弱いかなと思った。ミシェルがアダムを恨んでいた描写がもう少しあったらなー。ちょっと唐突に感じました。
そしてここは脚本がうまいんだが、ミシュランの調査員だと思っていたお客は実はそうではなかったんだね。アダムに与えられた2度目のチャンス。その前に、彼は失敗した、もう三ツ星は取れないって自暴自棄になって死にたいってかつての同僚かつ今はライバルですでに三ツ星を得ているレストランのシェフを勤めるリース(マシュー・リス)の元へ行くんだけれど。

リースは自分よりアダムの方が優れていることをもう認めていて、自分の厨房で一晩を過ごしたアダムに翌朝オムレツを作って出すのです。このオムレツがね、オムレツがね!バターを溶かして溶いた卵をフライパンに流してサッと作っただけのオムレツがシンプルでとてもとても美味しそうなのです。そしておそらくとても私的な食べ物であることを描いたシーンでもある。お客という不特定な相手じゃなくて、目の前にいる決まった人に対して作られる料理は本当に私的です。そしてセクシーでもありエロティックでもある。この作品は料理を通して愛や憎しみが描かれていると思うわー。

アダムはもう周りから愛されているし、仲間がいる。自分だけが厨房内で孤独でいて、皆に命令して怒鳴り散らし皿を投げ罵倒する必要はもう彼にはないの。彼の人生に足りなかったパズルの最後の1ピースが今やっとはまったんだと思う。だから今度こそ本当にミシュランの調査員が現れた時のアダムの厨房での態度は、肩の力が抜けて、皆と一緒に星を取ろう、という穏やかな姿勢になっていて。
ラスト、レストランの外でアダムとトニーが無言で視線を交わすんだけど、あれはおそらく星3つ取れたんでしょう。おめでとうアダム。ぼろぼろなアダムが厨房に戻るあたりから私はなぜか泣けて泣けて、もうずーっと泣きっぱなしでした。人が生きる意味を得て再生していく姿はとても美しい。それが彼の創り出す料理のシーンと共に描かれていたことに私は涙したんだと思う。

アダムが若かりし頃パリで修行していたジャンの店。そこでの仲間だったミシェル、マックス、リース。この4人のパリ修業時代をすっごく見たかった。この映画、良い意味で行間がすかすか。6~10話くらいのTVドラマで描いてほしい!ってすっごく思いました。

でもってどう解釈していいのか分からないのがアダムとトニーの関係なんだよね。週一でメディカルチェックを受けているアダムに医師兼カウンセラーのような存在のロシルド(エマ・トンプソン)が、「トニーはあなたのことを愛しているわ」って言ったのと、トニーの勤めるレストランがあるホテルの部屋にずっと泊まって住んでる状態のアダムのところへマスターキー使って勝手に入ってるし、極めつけはミシュランの調査員だと思ってた客がそうじゃなかったと分かった時、喜びのあまりアダムはトニーにキスをするんですが。それくらい嬉しかったんだけどもうトニーはいつものアダムに対する上から目線な態度はどこへやら、しどろもどろで動揺が隠せなくて。やっぱりトニーはアダムのことを言葉通り愛している、ということなのかなぁ。

全体に流れる音楽が、厨房のライヴ感と出来上がっていく料理のスピード感に大変にマッチしていて旋律も美しく、バランスの良い作品でした!観た後ちょっと奮発して美味しいレストランを訪れたくなる、そんな映画だよ。お勧めします。

Burnt-Omar-Sy.jpg


訪れた映画館にはこんなポスターが。




アダムのレストラン、Langham はこちらが舞台
Roux at the Landau

そのレストランが入っているホテル
THE LANGHAM


撮影中のオフショット



関連記事

コメント

非公開コメント

No title

こんばんは~♪
おすすめいただいたおかげで、素敵な時間を過ごせましたよ。ありがとうございます。

>この作品は料理を通して愛や憎しみが描かれていると思うわー。

まさに!!ほんとそうですね。
あと、木曜は終日働けというアダムに(このアホ!)と後ろから蹴りをいれたかったワタシ、当日のトニーの心遣いもすぐピンときて、それにしばらく気づかないアダムにまた(このニブチン!)とラリアットでした(笑)

こういう細やかなトニーの心配りって、やはりアダムを愛するがゆえかなと思いましたわ。もともとの彼自身の人格というのもさることながら。
アダムにいいようにいいように動くもんねぇ。愛は深いわ。うふ。

映画館紹介もありがとうございます。
ぜひ行ってみたいなぁって思いました♪

No title

今晩は!武田さんも気に入っていただけて本当にうれしい。お勧めした甲斐がありました。

やっぱりトニーはアダムのことを好きなんですよね。私そういうこととても鈍くて気付かないんですよ。支配人という仕事柄、人の気持ちや動向やちょっとしたことにすごく敏感に気付く人間だと思うのですよ、トニーって。でもその分自分の本音を上手に隠してしまっているのかなって思いました。
この映画の登場人物は過去とか感情とか色々色々掘り下げたくなる人ばっかりですね。

あと舞台がロンドンなので他の作品とクロスオーバーさせたくなる悪い癖が出てきます。いかんいかん…!


渋谷という土地はどうにも行き慣れてなくて苦手なのですが、本当に素敵な映画館に出会えました。いつか一緒に行きたいです♪