ハドソン川の奇跡

sully-poster.jpg


Sully (2016)


素晴らしい、素晴らしい映画でした。もう文句なしの手放しで褒めたいお話。

まず話の構成が素晴らしいと思うの。実際に起こった出来事、しかもまだ7年前のことだから、何が描かれるかは観客も分かっている。なので時間軸を何度か往復させた構成が、この映画ではそれが非常に功を奏していた。
NYのど真ん中、真冬のハドソン川に飛行機を不時着させたにも関わらず死者は0、全員生存というまさに奇跡を成し遂げたサレンバーガー機長。しかし人的ミスがあったと国家運輸安全委員会から訴えられそうに。ニュースで自分の姿が流れたり、取り調べを受けている最中にフラッシュバックとしてようやくその離陸から不時着までの出来事が描かれる。
離陸、バードストライク、失速、不時着、救出。その後、調べで当時左のエンジンは可動していて、近くの空港に戻ることが出来たと主張する委員会と、エンジンはまったく動かなかった、だからハドソン川への不時着を選んだ、と答える機長と副機長。
で、映画では残されたデータから行われたシミュレーションが終盤で描かれて、ここでもう一度当時の様子が再現されるのですが、1回目の再現シーンに加えて今回はコックピット内での機長、副機長のやり取りと川へ降りるまでの決断が細かく描かれていて、これ本当に構成がすごく上手だと思いました。見応えがある上に飽きさせない。実際にあったことだし結末も知っているのに、この後はどうなるの!?とぐいぐい引き込まれました。

それにしても、劇中のセリフにもありましたが、なぜこの事故をそんなに機長の人的ミスにしたがるのでしょう?起こってしまった事故を調査して再発しないようにするための委員会じゃないの?

シミュレーションは機械が行うもの。そこに人の要素は入っていない、それを考慮するべき。そう言ったサレンバーガー機長はまた、人の手が入ったから助かった、客室乗務員、乗客、救助に来てくれた人たち、その人たちのおかげで全員生存できた、それらがひとつでも欠けていたら全員助かることはなかったのです、と言っただけあり、彼は当事者にも関わらず、いちばん冷静に、客観的にこの事故を見ていたのではないかな。その場でいちばんベストの道を選び、なすべきことをした機長。不時着した後機内にどんどん海水が入ってきても、最後まで機内を見回り取り残された人がいないかどうかを確認し、コックピット内に戻って乗客名簿(かな?)とジャケットを取り、副機長に続いて最後に飛行機を離れた機長。彼こそが正しいことをした人であり、その彼を誰が責められると言うのだろう。

この飛行機を誘導していた管制官を描いたのも良かったな。USエアウェイズ1549便との通信が途絶えて、もうだめだ、飛行機は落ちた、全員死亡だ、と思い込んで一筋の涙を流す管制官。やり取りにミスがなかったかどうかの調査が入るため、すぐさま席を外されて隔離状態のような部屋にぽつんといる彼がようやくたって、飛行機は川に不時着して乗客乗員全員の生存を知った時の「嘘だろ?」な表情。普通なら誰だってこんなリアクションになります。


2009年の出来事とはいえ、これだけ皆の持つ携帯のほとんどにカメラが付いていて、SNSも盛んなのに、不時着の様子を映していたのはたまたま川も映るよう備え付けられた倉庫かどこかの監視カメラだけ、というのにも驚きでした。気づいた人が少なかったのは、バードストライクで壊れたエンジンから音がしなかったので、マンハッタンの上空を飛行機が低空飛行していることを知る人は少なかったとのことです。

それにしても、色々なことを考えると奇跡と言うしかないに等しい。マンハッタンの真横を流れるハドソン川に不時着できたこと、そのハドソン川には橋がひとつしかなかったこと(反対側のイースト川には橋がいくつもある)、真冬の川だったけれど、すぐに通勤フェリーの船長が気付いたこと。続いてたくさんのフェリーが救助に駆け付けた事。NYPDより早かっただなんてすごい。

エンドクレジットに流れる音楽も、イーストウッド作品だといつも物悲しい曲なのに、今回は温かみのある、ほっと一息ついて、あぁ良かった、と思える曲調で〆られました。生き抜いた彼らを心から祝福したい、そんな気持ちになれるエンドロールでした。


キャスト。トム・ハンクス。もう彼は最近の作品を見れば安心して見られる演技ですね。80年代は「ビッグ」でNYにあったFAOシュワルツの店内にある床のピアノで踊ってた彼がこんなに渋くなったのは、本当に感慨深い。今回は実在の人物に合わせて髪も白髪になってて。機長の誠実さがよく伝わりました。
アーロン・エッカート。私は彼の顔は映画にはちょっと優しすぎる感じかな、って思ってたんですが、今回は髭を生やしていたせいもあるのか、貫禄が出てとても良かったなー。サレンバーガー機長に比べると、少し感情的にものを言う傾向にあるジェフ・スカイルズ副機長。決して派手なシーンはないけれど、トム・ハンクスとの息もぴったり。映画はスカイルズ副機長のセリフで終わるのだけれど、ちょっぴりユーモアのあるその台詞は、サレンバーガー機長より少しだけ饒舌で感情を表に出す副機長の性格が出てて、その彼の言葉で終わるのもまたよかった。


さてこの映画、私は「オデッセイ」を見た時も同じことを思いましたが、その道のプロが考えられるすべての方法を考え、実行して、そして最後は本人がなすべきことをした結果が奇跡に繋がったお話。困難な状況に追い込まれたとき、泣き叫んだり声高に周りを責めたりするのではなく、過去の経験や自分の知識を総動員して、そこからいちばんよいと思う道を選んだまでのこと。だから本人は謙遜でもなんでもなく、私はヒーローではないよ、と静かに答えるに過ぎない。サレンバーガー機長の対処って本当に冷静で落ち着いていて、私がこの映画で一番感銘を受けたのは、機長から乗客へのアナウンスはたった一言、
"Brace for Impact." (衝撃に備えて)
他の余計な言葉は一切なし、この一言だけで彼は全てを乗客に説明していると思うのです。そしてそれを聞いた乗客乗員もすべてを理解したはず。

これって思うに2001年の同時多発テロ事件で、アメリカがその時の行き過ぎた感情で始めた戦争が泥沼化したことへの反省というか反動から作られたんじゃないかと思うのですよ。人が大きな決断をするには何が必要なのか、どうすべきなのがいちばん大事なのか。特に人の上に立つ人間がそういった決断をするには、よくよく考えないといけないはずだから。

それにしてもイーストウッドの映画は本当にリアルで時々気分が悪くなりそうなくらいです。今回は狭い空間の機内、ゆっくりと動き出す飛行機、客室乗務員が行う安全と緊急時の説明、エンジンの音、加速を始めてしばらくすると地上からふっと機体が宙に浮くあの独特の感覚。まるで自分も一緒にこの飛行機に搭乗しているかのような気持ちになりました。
この映画、たったの96分ってほんとですか!?120分以上あるように感じられました。それくらい1秒たりとも無駄なシーンがなく、ぴんと張った緊張が最初から最後まで続いていたということかな。


あーすごく素敵な映画を見てしまった。どうしよう、今年は見る映画どれも豊作すぎてもう倒れそう。


関連記事

コメント

非公開コメント

No title

こちらにもやっと。

でも、云いたいことみんな書いてくださってるので、そーなの、そーなのよ、そうなのよねぇ・・・と膝たたいて、頷いてお茶飲みました。

今年の文句なしの個人的ベスト1ですが、ほんと今年は豊作で嬉しいですね♪
あれかな?日ごろの我々への?(うふ)

No title

あーもうこれはほんとに私があれこれ語るよりイーストウッドがすべて映画という形でサレンバーガー機長のすべてを描いてくれたと思うのです。なにからなにまで完璧な映画。それに尽きます。

こんなに見る映画見る映画どれも豊作だと、今まだ10月なのに、来年もどうか素敵な映画に出会えますようにって思っちゃう。今年がすごかった分来年ダメなんじゃないかとすでに次の年のことを心配している…(苦笑)。

でも、ね、ほら、わたしたち日ごろの行い良いから…ね(むふ)。