ジェイソン・ボーン

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Jason Bourne (2016)


私はボーンシリーズが本当に大好きで心から愛していて、3部作ラストはこれ以上ない完璧なエンディングだと思っているので、続編はそれを越えないとたぶんだめだろうなと分かって観に行ったので、こういう感想になるのはある程度予想はしてました。ですのでとても辛口の内容です。

登場人物の誰にも共感できなかった。これがいちばん痛い。
今回のボーンは、父親が実はCIA職員で、トレッドストーン計画を精査するにあたってそのプログラムに息子が参加しようとしていたから計画自体を止めようとしてテロに見せかけ殺された、というのがあらすじなんだけど、まずこの設定がだめで。3部作でボーンの過去、しかも記憶喪失で失われてしまった自分自身をいかにして思い出すか、自分は誰なのかを丁寧に描いてくれたのが、この作品で今まで何も匂わされることのなかった彼の違う側面、しかも父親というものすごい身内を突然出してくるのは、ちょっとなぁ…。ボーンは誰かから無理やり計画に参加させられジェイソン・ボーンになったのだと思いきや、実は自身の愛国心からトレッドストーンに志願したというのが3部作の最後に明かされた驚愕の真実だったので、父親もCIA職員でボーンにはもともとそういう下地があっての志願だったとなると意味合いが変わってしまって残念。
しっかし「愛国心」とか「国のために」ってこじらせると面倒ですね。採用する方も「国が君を必要としてるんだ」とかすんごい大げさに言って煽って来るしねぇ。

で、その父親を殺したのが今回ボーンを執拗に狙う殺し屋(ヴァンサン・カッセル)で、ボーンがブラックブライアー計画を暴露したせいで、2年投獄されて拷問も受けてきたというバックグラウンドがあって、そのせいでCIA長官デューイの下で指示を受けるも、途中から自分勝手に行動しちゃう奴なんですね。もうこいつもほんとダメで。「アイデンティティー」のプロフェッサー、「スプレマシー」のキリル、「アルティメイタム」のパズといった、なにかしら一理ある殺し屋とは全然比較にもならないしょうもないやつで、見ててこいつの行動にいちいち腹が立って腹が立って。ボーンは無用の殺人はずっと避けてきたしどうしてもとどめを刺さざるを得ない相手しか殺してこなかったのに、そしてそれが彼の信条だったのに、こいつは私怨のみで、しかも関係ない人間や一緒にボーンを追ってる仲間さえも殺しちゃっててほんとてめーはダメだ!ボーン・シリーズを貫いている大事な部分をこいつひとりで壊しちゃってるのです。

ボーンは今回冒頭のボクシングシーンで上半身が裸になった時、背中の上の方、左肩近くに銃創があるのが分かるんだけど、これは「スプレマシー」でロシアの川沿いを歩いていた時に後ろからキリルに撃たれた跡ですね。こういう細かいところは嬉しかった。そうだなー、今回も劇中での季節は冬だったから、ボーンにはあの黒いチェスターコートの裾をはためかせながら街や雑踏の中を思いっきり駆け抜けて軽やかなアクションをしてほしかった。
実は今回アクションも物足りなくて。ボーンは追われていたはずがいつの間にか敵の懐の奥深くに飛び込んであっという間に倒して逃げおおせるのがクールでそれが持ち味なのに今回はそれがなくてね。それに彼は武器が手元になくても強いのだから、そういうのも見たかった。なにせナイフ持った相手に丸めた雑誌で対抗して戦うくらいですから。「スプレマシー」のあのシーンが好きで好きで。ああいう機転を見たかった。
そういう意味ではキレのある行動やアクションは少なかったね…。ロンドンでボーンを追うA班、B班はヴァンサン演じる暗殺者じゃなくてボーンが自らあのキレる頭脳と状況に応じて立てるスピーディな戦略で倒してほしかった(そして決して彼らを殺しはしない)。3部作で見られた、スカッとしたり、おぉ!と驚く手腕が今回はなくてね。焼き直しなアクションが多かった。

ニッキーが登場した意味も分からない。CIAからデータをハックするのが彼女でないといけない理由がないし、彼女がボーンと逃げたのに殺されてしまったのは、「アルティメイタム」内のタンジールで描かれたあんなに必死でスリリングな逃亡劇を無にしてしまったうえ、ボーンとバイクにタンデムして逃げても最後はビルの上から狙撃者に撃たれてニッキーは死んでボーンは生き残るって、これまるっきり「スプレマシー」でのボーンとマリーをなぞってるでしょ。マリーはボーンにとってオンリーワンの女性であってほしいから、この描写がなぁ…。同じこと繰り返してほしくないし、ボーンが女性とどうこうなるのは私は求めてないの。ジェイソン・ボーンはストイックな男であってほしい。ニッキーにはニッキーの役割がちゃんとあって、それは既に「アルティメイタム」できっちり果たしてくれたわけです。だから彼女の再登場と死は完全に蛇足。

CIAの新人職員ヘザー・リー。これは間違いなく、今回は出演のなかったパメラ・ランディ長官ことジョアン・アレンの代わりですね。そして演じるアリシア・ヴィキャンデルは今一番勢いがある女優。おそらくその影響を受けて、この映画での彼女の出番や役割も大きいものになるよう書き換えられたと思わざるを得ない描き方でした。だってさ、「アイデンティティー」ではトレッドストーン計画の責任者コンクリン、「スプレマシー」ではトレッドストーンを引き継いだアボット長官と部下のダニーが殺され、「アルティメイタム」ではブラックブライアー計画の責任者ノア・ヴォーゼンとそもそもの計画を企てたハーシュ博士が逮捕という結果になっているのに、ラスベガスのホテルでCIA長官(長官ですよ!?自分のいちばん上の上司ですよ!?)を撃ったまだ新人のリーが無罪放免で何もおとがめなしって、それはどうあっても納得いかない。しかも彼女が長官を撃った銃をボーンが受け取ったってことは、彼が殺ったことになるよね?そうするとまたボーンは追われるの?もういい加減彼のことは放っておいてあげなよ。そっとしておいてあげようよ…。
むしろラストでボーンに会ったあとリーは何者かに暗殺されて道路に倒れて誰にも知られないまま無残に死ぬ、でも良かったくらいなのに(あ、それはコンクリンの最期か)。あの終わり方はいかにもまだ続編作れますよ、で卑怯だ。

ボーンも、リーからCIAに戻ってきて、と言われてもきっぱり断ってほしかったなぁ。だってボーンは「アルティメイタム」で"I can't."ってはっきりと断言した男。私はボーンの人生は孤独で孤高だけど、不幸ではないと思っています。だから彼は「アルティメイタム」のラストでイースト・リバーの水中を泳いで姿を消していった後、どんな道を選んだかは分からない。でも彼は彼なりに、自分がいちばんいいと思う、納得ができる生き方を選んでいると思うのですよ。そういう生き方しかできない人間でもあるし。それは今回冒頭で描かれた、賭けボクシングのようなことに身を投じていたり、もしかしたら元CIAや暗殺の腕を買われたり生かしたりして何かしら裏の仕事を請け負って、生きていけるだけの金と住むところがあればいい、みたいな人生を送っている/いたかもしれない。それでも私はそういう彼が不幸だとは思わない。なぜならジェイソン・ボーンはもう自分の本心に背を向けることは決してないし、どんな理由があろうとできないことにははっきりと”I can't.”と言った人間なのだから。

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